photo:田中聖太郎

text:宮内 健

 2016年は世界的に激動の1年であった。そんな中、ハナレグミは1月からNHKホール2daysを含む全国ホールツアーを実施、映画「海よりもまだ深く」のテーマ曲「深呼吸」をシングルリリースし、9月には自身初のライヴ・アルバム『Live What are you looking for』を配信限定で発表。片やレキシは5作目となるフル・アルバム『Vキシ』を6月にリリースし、さらには2度目の日本武道館ワンマンを満員御礼で成功させ、春にはドラマ「99.9」への出演も話題となった。独自のスタンスを貫きながら今年も大きな活躍を果たした2組のアーティストが所属しているマネジメント・オフィスが〈Laughin'〉だ。その設立10周年突入を記念したツアー「Laughin' 10周年突入記念イベント La族がまたやって来た、ジュー!ジュー!ジュー!」初日が12月11日東京国際フォーラム ホールAにて開催。ハナレグミとレキシのカップリングによるライヴは、8周年記念の日比谷野音以来2年ぶり。仲良し二人の共演を目撃しようと、5,000人が集まった。
 多田玲子によるポップなイラストが映えるステージに登場したのは、ハナレグミ。今年1月から全国を回ったホールツアー「Tour What are you looking for」に参加した菅沼雄太(ドラム)、真船勝博(ベース)、YOSSY(キーボード)、icchie(トロンボーン/トランペット)、武嶋聡(サックス)と、ともに大きな拍手で迎えられる。「La族の方たちようこそ! 今日はレキシがいるから長いよ!」とのっけから冗談交じりに挨拶。まずは「光と影」をギター1本で歌い上げると、客席を埋め尽くしたオーディエンスを早くもハナレグミ・ワールドへ引きずり込んでいく。2曲目は記念すべきソロ・デビュー・アルバムから、表題曲「音タイム」は遠くにアイルランド音楽を感じさせるやさしく雄大なサウンドに。さらに同アルバムからセレクトされた「家族の風景」では、演奏し終えた永積が「キマっちゃったって感じかな(笑)」と満足気に語るほど、ステージと客席の想いがぴったりとシンクロする至福の瞬間が味わえた。
 『オアシス』収録の「きみはぼくのともだち」をしっとりと歌い終えた直後に、「アフロ以前の池ちゃんは綺麗なキューティクルだった」などと池田と出会った頃の思い出話を語ったりと自由なMCを挟みながらライヴは進んでいく。
 今回のバンドは年初のツアーを共に回っただけでなく、アルバム『What are you looking for』のレコーディングにも深く関わった面々。息のあったメンバーだけあって、バンド・サウンドはさらなる進化を遂げていた。レオン・ラッセルあたりに通じるスワンプ・ロックなグルーヴとサンプリングのサウンドを上手く噛み合わせた5曲目「フリーダムライダー」や、永積の切なくも伸びやかな歌声が炸裂するスカ・カヴァー「オリビアを聴きながら」、さらに粘っこいファンキーさとスーパーバタードッグ期を彷彿させるドリフ感が強化した「無印良人」、アフロ・ファンクとトロピカル・ミュージックを自由に行き交う「オアシス」と続く中盤のセットは、メンバーそれぞれの楽しい遊び心がアンサンブルに深い奥行きを与えていて、もっともっとこのバンドの演奏に浸っていたいと感じさせる。
 満面の笑顔を浮かべるオーディエンスに「レキシの準備運動になればいいんですよ。どうせこのあと稲穂を上げるんでしょ?」などとくすぐりを入れつつ、ライヴは終盤へ突入。会場中が手を振りながらシンガロングして最大の盛り上がりをみせた「明日天気になれ」から、ラストは一転して「深呼吸」をじっくり歌い上げ、息を呑むような静寂の中で聴き手一人一人の心を激しく揺さぶったハナレグミは「次は御館様が待ってるから」と舞台を後にした。

 休憩時間を挟み、後半はいよいよレキシのライヴ。いつものようにホラ貝が流れると、健介さん格さん(奥田健介/ギター)、元気出せ!遣唐使(渡和久/ピアノ&コーラス)、ヒロ出島(山口寛雄/ベース)、蹴鞠Chang(玉田豊夢/ドラム)、TAKE島流し(武嶋聡)、元妹子(村上基/トランペット)というおなじみの精鋭たちを引き連れ、御館様こと池ちゃんが白袴で登場。1曲目はいきなりの「KMTR645」! 総立ちの観衆が踊り出して、会場が大きく揺れるほど。客席に投げ入れられた(ビニール製の)イルカが飛び跳ね、もはやライヴ終盤のような盛り上がり。2曲目に「年貢 for you」が披露されると、「社長からブッ込むなと言われてるけど、そう言われるとやりたくなっちゃう」と言いながら2016年最大の流行曲(?)「PPAP」を挿入。相変わらずトレンドのパク……いや、取り入れ方が超早いなぁなどと感心しているうちに、3曲目でまさかの「狩りから稲作へ」! 慌てて稲穂を取り出す客席を尻目に、今日の池ちゃんはグイグイと攻めていく。♪夢見たレキシってどんなだっけな~ と先ほど披露されたばかりのハナレグミ「深呼吸」を替え歌したかと思えば、♪稲穂ラブリ~(スティーヴィー・ワンダー「Isn't She Lovely?」)や、♪この稲穂からの卒業(尾崎豊「卒業」)、♪二人で稲穂振って~その時レキシは何かを奪うだろう~(尾崎紀世彦「また逢う日まで」)などと、次々にブッ込んでいくネタに対して、実に素早く柔軟に対応していくバンド・メンバーたちのプレイに、オーディエンスも大いに沸きまくる。
 「こんばんはケビン・コスナーです」とお約束の挨拶をようやく挟みつつ、バラードの名曲「最後の将軍」で心に迫る歌唱とキーボードソロをじっくり聴かせる〈ギャップ萌え〉を魅せたかと思えば、「SHIKIBU」ではイントロの8ビートのドラムリフだけで散々遊び倒したりと、この日も観衆を翻弄しまくるレキシ。「それでも6曲もやったんやで!ワンマンでもないのに」と謎のドヤ顏を見せると、最近自動車のCMに起用されたあの曲の話題へ。「貴族は成長する レキシはどうする?」と池ちゃんが貪欲にボケまくる中、ミラーボールが回り出し、いよいよオーラス「きらきら武士」へ突入。ふたたび会場が大きく揺れるほどに大観衆が踊り出す。曲中にはこの季節ぴったりの「ジングルベル」が織り交ぜられたりと、巨大なクリパと化した国際フォーラムで5,000人の〈武士納め〉が執り行われたのであった。

 本編終了後鳴り止まぬアンコールの声に応えて登場したのは、所属事務所〈Laughin'〉の頭文字である「L」と「A」のかぶり物を被った永積と池田。La族のショートコントを挟みつつ、1曲目に歌ったのはなんと事務所スタッフのマジ求人ソング。スタッフからの要望をお題に二人が即興で作り上げていくという企画なのだが、これが意外なほどのハマりっぷりを見せる。調子いいとすぐに脱線したがるのがLa族の性質でもある。ここでもやっぱりさだまさしや星野源、エリック・クラプトンの替え歌などに寄り道しつつ、社命である求人募集のミッションを見事に完遂した(注:Laughin'では優秀な人材をマジ募集中です。詳しくは事務所HPへ!)
 一風変わったセッションを終えて、再びレキシのバンド・メンバー(+icchie)を呼び込み、2年前のLa族イベントに引き続き「LA」にちなんだ曲をセッションすることに。今回選ばれたのは大黒摩季「ら・ら・ら」。みんなで手を振りながら♪ら・ら・ら~と合唱する光景に、一体これは何を見させられているのだろうか?と疑問がよぎりつつも、なぜかえも言われぬ感動も湧き起こってくるから不思議だ。さらにもう1曲、8周年でも歌った久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」もカヴァーし、ナンセンスかつファンキーに10周年突入記念祭はフィナーレを迎えた。

 アンコールで事務所設立10周年の想いを語っていた永積と池田。スーパーバタードッグ時代からマネージャーを務めていた〈サワちゃん〉ことK女史が一念発起して独立して2007年に設立したのが株式会社ラフィン。「これから行くぞって時に会社作ってくれたのに、その1年後にバンド解散しちゃってね。サワちゃんには本当悪いことしたよね」と二人揃って反省の弁を述べていた。がしかし、その後のハナレグミ、そしてレキシの目覚ましい活躍は説明するまでもない。マイペースな二人の稀有なセンスと底知れない才能を信じて、時に叱咤激励し、時に一緒に泣き笑いしながら、唯一無二のアーティストへと育て上げた社長の手腕と辛抱強さは称賛に値するものだ。この先15年・20年と〈ナンセンスかつファンキー〉なノリを失わずに、笑顔でいられるような音楽をずっと送り続けてほしい。と、アンコールの大きな拍手の中で想いを巡らせたのだった。

hanaregumi

icchie / Trumpet
YOSSY / Keyboards
真船勝博 / Bass
菅沼雄太 / Drums
武嶋 聡 / sax,flute

1. 光と影
2. 音タイム
3. 家族の風景
4. きみはぼくのともだち
5. フリーダムライダー
6. オリビアを聴きながら
7. 無印良人
8. オアシス
9. 明日天気になれ
10. 深呼吸

rekishi

Gt:健介さん格さん(奥田健介 from NONA REEVES)
Piano&Cho:元気出せ!遣唐使(渡和久 from 風味堂)
Ba:ヒロ出島(山口寛雄)
Dr:蹴鞠Chang(玉田豊夢)
sax&Fl:TAKE島流し(武嶋聡)
Tp:元妹子(村上基 from 在日ファンク)

1. KMTR645
2. 年貢 for you
3. 狩りから稲作へ
4. 最後の将軍
5. SHIKIBU
6. きらきら武士

encore

1. 求人募集のうた
2. ら・ら・ら
3. LA・LA・LA LOVE SONG

top